![]() ![]() 日も沈んだ夜、徒歩でその家に向かうのですが、駅からその家に行く途中には少し長い上り坂があります。 その坂は、それまでの道と比べ、人通りが少なくなります。その坂の途中には墓地もあります・・・。 さすがに気味が悪いといえば悪いのですが、少々怖がりな私も、その坂にはいくらかの電灯があるので、 それほど気にすることなく、いつもその坂でその日教える内容を考えるのです。 しかし、その日は少し違いました・・・。 ・・・駅からその坂までの道のりはいつもと変わりませんでした。 いつもの道、暗いけど明かりがある道。 そこから、電灯が無い坂を少し登り始め、いつものように内容を考え始めました。 「今日は何から始めようかな・・・。あれも忘れずに教えないと・・・」 ジャッ・・・。 雨によって左手の斜面が少し崩れてきたのか、アスファルトのところまで流れてきた砂利の音に、 私は思考をさえぎられました。 (結構雨降ってたもんね・・・) ジャッ・・・。ジャ・・・ ジャッ・・・ジャッ・・・。 ・・・ク・・・ゥク・・・ク・・・ク・・・ 「うん・・・?」 明らかに私の踏む砂利の音とは異なる音が耳に入ってきました。 (何の音?。砂利の音じゃなかったような・・・。) そう思って、私は少し前を見ました。 坂の前方には人が、自転車を押していた女性らしき人影が見えました。 私がその人を見たときには、砂利の音ではなかったようなその音は消えていました。 (気のせいか・・・あの人が自転車を押しているだけだよね・・・。) どうでもよくなった私は、再度教える内容を考え始めました。 ジャッ・・・。ジャッ・・・。 歩くにつれて距離が縮まってきました。私の方が少々歩調が速かったようです。 ・・・ウク・・・ク・・・ック・・・ウク・・・。 ・・・ウク・・・ス・・・ウックク・・・ウク・・・。 近付くにつれて、その声がはっきりとしてきました。 (違う・・・。) 音が大きくなるにつれて、私の頭は教える内容ではなくその音に気をとられ、 全く集中できなくなっており、私の目と耳はひたすら彼女を追っていました。 自転車を押していたのは中年の女性でした。 やはり、この音は彼女の方から聞こえてくる・・・。 彼女は、お互いの足音が聞こえるくらいの距離になってもずっと下を向いたままでした。 前も見ずに・・・。 暗い坂、電灯も無い道で、彼女は、ただ下を向いたまま自転車を押していました。 ・・・ウク・・・ウック・・・ウクッウク・・・ (・・・泣いている・・・? これは・・・泣き声?) ・・・ウッ・・・ウクッ・・・ (何で・・・) ・・・気味が悪い・・・。 ゾクッ 私は身震いがしました。 私の思考はその声に完全に捕らわれてしまいました。 そして・・・墓の前まで来ました。 そして・・・私と彼女との距離もかなり近くなりました・・・。 ・・・ク・・・シク・・・シク・・・ク・・・。 ・・・やはり気味が悪くなって少々距離をとろうとしました・・・。 そして、目を合わすまいと思いつつも、その彼女の方を見ました。 ギロ・・・。 ・・・!! (ゾクッ・・・) 彼女が、こちらの方を睨んだように見えました・・・。恐ろしく恨みがましそうな目で・・・。 同時に、人すら殺しかねないような目で・・・。 本能的にか私は急いで目を逸らしました。 せめてそうしなければ・・・私は自分を・・・逃げようという自分の衝動を抑えられなかったのです。 私は気づかれないよう少々小走りに歩いて距離をとりました。 本能的に、いきなり走り出してはその女性を刺激すると思ったからだと思います。 しかし、時が経てば経つほどその女性の動向が気になってきました。 実はすぐ後ろまできているんじゃないか・・・。急に襲ってきたりしはしないか・・・。 そんな考えがどうしても頭から離れませんでした・・・。 ・・・・・・怖い・・・・・・。 心の底からそう思いました・・・。 ・・・。 ・・・。 彼女の方を振り返らずに小走りに坂を登りました・・・。 後ろを振り向かず、ただひたすら・・・。 ・・・そして私は、墓地を通り過ぎて坂を登りきりました。 そして、坂を上りきったことにより安心したのか、私はつい後ろを振り返りました・・・。 振り返ってしまいました・・・。 ![]() ![]() ![]() ![]() たまらずに振り返りました。 とにかく振り返らなければ・・・自分と彼女の距離を確認しなければ理性を保てなかったのです。私は彼女の斜め前方の位置から彼女のいる左後方を見ました。 「え・・・?」 彼女はいませんでした・・・。いなくなっていました・・・。 その時、私は少しほっとしたのだと思います。 少し、ほんの少し笑みがこぼれたような気がします。 「誰かお探しかい・・・?」 私に戦慄が走りました・・・。真後ろから声がしたのです。 体ごと後ろを向きました。 そこには、血走らせ飛び出るくらいに目をむいた恐ろしい形相の顔を、私の顔に近づけた彼女がいたのです。 「ウワァッ」 声を上げてしまいました。 「誰かお探しなのかい・・・? ウフフ・・・フフフフ・・・」 「い・・・い・・・いい・・・」 私の口からはこれだけの言葉しか出てきませんでした。 「待ってたんだよ・・・。一緒に行こうよ・・・。あの世へ!!」 彼女は、狂ったような口調でさらに恐ろしく目をむいてそう言い放ちました。 「な・・・。」 「みんな待ってるよ・・・。ほらそこで・・・。」 彼女は墓地を・・・。墓地の場所を指差しました。 私も指差されるまま墓地の方を見てしまいました。 そこには、紅く血塗られたような墓地が眼前に広がっていました。 そして、目の前に赤い色が広がり視界が狭くなっていきました・・・。 「私だけが死ぬなんて許せない・・・一緒に連れて行くよ・・・。」 ![]() ![]() ![]() ![]() |