何かが違う・・・



これは、実話です・・・。


ある朝、私(仮称:早苗)は目が覚めたとき、見知らぬベッドにいました。
寝ぼけ頭で、自分はまだ寝ているんだろうと思いながら階下に降りた私が見たものは普段とは違う光景でした。
階下の部屋は、自分の家の部屋とは明らかに違う、二つのドアを除き四方が石壁で囲まれていて、家具も何も置いて
ないただ広いだけの部屋になっていました・・・。

「・・・なに?これは・・・。」
その部屋には本当に何もありませんでした・・・。確かに何もありませんでした・・・。
そのはずだったのに、私が階段の下から二階を見あげるため部屋から目をそらし、もう一度目を部屋に戻すと、広い
部屋の中心には人が二人、中国の服を着た人が二人、それほど大きくもない机に向かい合いながら椅子に座っていま
した。
「・・・どういうこと?さっきはいなかったはず・・・。」

「・・・!」
その二人は私の両親でした・・・。この異様な光景の中、二人はさも当たり前のようにしていました。
そして、目もくれず二人は何かをしていました。
少し近づいて私は尋ねました。
「お父さん?お母さん・・・?」
・・・。
「お父さん?お母さん・・・?」
・・・。
「どうして返事してくれないの?ねぇ?」
・・・。
机の前まで行きました。二人の顔はまるで能面のようでした。
私はもう一度尋ねました。
「ねぇ?」
二人は急にこちらに振り向きました。

ビクッっとしました・・・。
二人はこちらを向くと同時に、普段どおりにこやかな顔になっていました。そして・・・
「おお。早苗か、お前も手伝いなさい。」
「そうよ、早く手伝いなさいな。」
二人は手ではしきりに作業をしながら、そう言いました。
「手伝うって何を・・・?」
私が机を見下ろすと、刃物(刀)が何本も何本も置いてあり、二人とも刃物を布で磨いていました。
「・・・何やってるの!?」
向かって右手に座っていたお父さんがもう一度振り向きました。そして、にこやかな顔で、
「見てわからないかい?」
「どうして刃物なんか磨いてるのよ!それにここはどこなの?」
「見てわからないかい?」
父親の顔はにこやかなままでした。
「え・・・?」
父は戸惑う私を見ながら・・・
「見てわからないかい・・・?」
「みてわからないかい・・・?」
「ミテわかラないカい・・・?」

「・・・一体・・・何を・・・?」
「ウフッ・・・。ウフフフフフフフフフッ・・・」
急に母の声がしました。
(えっ?)
私は母の方を振り向きました。
母の顔は再び能面のようになっていました。
ドンドンドンドンドン・・・。
右手の方から急に何度も何かを叩くような音がしました。
父がさっきまで磨いていた刃物で机を何度も叩いていたのです。
「お父さん・・・?」
父の顔も能面のようになり、目は机の方しか見ていませんでした。
「ね・・・」
私が再度呼びかけようとしたとき
ドンドン・・・ドドドドドドドドドド・・・。
急に音が重なりだしました。
母まで刃物で机を叩き始めたのです。一心不乱に机から目もくれず。

「どうしたのよ!ねえ!!」
私は混乱の中で叫びました。
・・・。
・・・。
・・・。
急に音が止まりました。
「え・・・」
そのとき、私はかすかな希望を持ったような気がします・・・。二人が自分の声に反応してくれたと思ったから・・・。
私がそう思った次の瞬間、二人は急にこちらを向きました。
見ないほうがよかった・・・。今でもそう思います・・・。

私は硬直しました・・・。
二人の顔は先ほどの能面の顔から次第に醜悪に変化しだしました。そして、
「どウしタって?・・・ネぇ・・・?」
「ソうヨネ・・・オとウサん・・・ウふフフフフフふフフフフフ」
「どウしタって?・・・ネぇ・・・?」
「ソうヨネ・・・オとウサん・・・ウふフフフフフふフフフフフ」
二人はまるで壊れたロボットのようにしゃべっていました。
「・・・。」
ガチ・・ガチガチガチ
恐怖で身がすくみ、歯が鳴るだけで声さえ出ませんでした・・・。
バッ
二人は刃物を持ったまましゃべりながら立ち上がりました。
そして大きく振りかぶり・・・

刃を振り下ろしてきました。
「ィヤッ・・・」
ドスッ!!
私は反射的に身をよじり、すんでのところで刃をかわしました・・・。
「サな・・・エ・・・エェエェ・・・」
「さナ・・・ナナナァ・・・エェ・・・」
キシャァーッ
何かわからない音が聞こえたような気がしました。
二人は顔を見合わせた後、私の方を見て再び大きく振りかぶろうとしました。
「ヒッ・・・」
もうそんな声しか出ませんでした。
「イヤァーッ!!誰か!誰かぁっ!!」
母を突き飛ばして私は家の外に出ようと駆け出しました。後ろを振り向かずに・・・

ガチャッ
玄関の鍵は開いていました。
私、急いで外に出ました。

外は小さな灯りがあるだけで、かなり暗かったです。
ハッとして私はすぐにドアを閉めました。
ギィィィィ・・・バタン・・・。
軋み音を立てて扉は閉まった。
・・・。
・・・。
・・・。
予想外にも二人は追いかけては来ませんでした。
足音が聞こえないので少しホッとしました。

改めて周囲を見回しました。
・・・。
すると、誰かが倒れているようでした。
恐る恐る近づいてみると、やはり人でした。人がうつ伏せに倒れていました。
「あの・・・」
・・・。
「あの・・・、大丈夫ですか・・・?」
・・・。
私はその人を仰向けにしました・・・。
「・・・!!」
・・・。
・・・。
その人は腹部を何かに食い破られていました・・・。
首には刃物で切られたような後もありました。

ザッ・・・。
ザッ・・・。
私が死体を見た際に驚きのあまり口を両手で抑えてから、どれくらいが過ぎたでしょうか・・・。
暗闇から何か足を引きずるような音が聞こえてきたのです・・・。
音のした方角に目をやりましたが、灯りのある範囲以外は本当に何も見えませんでした。
「誰…?」
小声で呟くような声を出しました。
・・・。
返事はありませんでした・・・。
「・・・。」
私は恐怖で居たたまれなくなりました・・・。
(何で!何で私はこんなとこにいるのよ!何でなのよぉ・・・。)
そう心の中で何度も叫びながら私はうずくまりました。
泣きたくなりました・・・。もう何も考えられなくなってきてました・・・。

ザッ・・ザッ・・。ズザッ・・・。
ザッ・・ザッ・・。ザザッ・・・。

そのとき、再び音が聞こえてきたのです。しかも大量に足を引きずるような音が・・・。
私は音のした方に、恐る恐る顔を上げて声を出そうとしました。
「だ・・・。」
私は絶句しました・・・。
腰をまげたまま頭をこちらに向けた何十人もの人が、明かりの届く範囲に次から次へと入ってきたのです。手には血に
濡れた刃物を持って・・・。

「ヒッ・・・。」
顔・体が完全に固まりました・・・。
彼らは私を見つけると、こちらに来ながら口々に言い出しました・・・。
「ク・・わ・・せロ・・・・。」
「くワせ・・・・ロ・・・」
「キュ・・・ワ・・・セ・・ロ・・」
「ウ・・・マ・・・そ・・・ウ・・・」

グチャッ・・・。ぐチュっ・・・。
バギッ・・・。ボリ・・・ボリ・・・。

不意に後ろの方から何かを食べるような音がしました・・・。
「ウま・・・い・・・ナ・・・」
「う・・・マ・・・イ・・・」
さっき倒れていた人のところに、刃物を持った奴らが来ていて・・・
人を・・・食べていました・・・。
ハッとして辺りを見回すと、出てきた家を除いて既に血塗られた刃物を持った奴らに囲まれていました。

もう、家の中に駆け込むしかありませんでした。
「クわせロー!!」
「くワセロー!!」
そう叫びながら、奴らは次々と血が滴る刃を振り下ろしてきました。
ブシュッ・・・。
私は、腕を刃物で少し切られてしまいましたが、手足を使ってまるで四本で歩く動物が走るようにしながら、なんとか家
のドアに擦り付きました・・・。
奴らはすぐに私の方に、私を取り囲むように近づいてきました・・・。
ガチャガチャ・・・。
ガチャガチャガチャガチャ・・・。
ドアノブはまわるのにドアはなかなか開いてくれませんでした。
(はやくハやくはヤクハヤく・・・・)
(はやくハやくはヤクハヤく・・・・)
「うゥッ・・・」
私が泣きそうになったとき・・・。
ガギッ!!

何か引っ掛かっていたものが外れたようでした。私はドアが開く勢いのあまり、倒れこむように家の中に入りました・・・。
「ふぁあっ!!」
バーン!!
最早言葉になっていない声を上げながら、私は思いっきりドアを閉めました。
そして、前傾姿勢のまま、倒れこむように家の奥に行こうと玄関から広い石壁のある部屋に駆け込みました・・・。

入ってから思い出しました。気が動転して忘れていたのです。刃物をもった両親がいたことを・・・。
腰が砕けそうでした・・・。
キシャーッ!!
醜悪な顔となっていた両親は私を見つけるなり刃物を握り締めて襲ってきました。
「ヲかえ・・・リー!!」
「フフフフフフゥー!!」

ビュッ!
ブーン!!
二人は次々と刃物を振り下ろしてきました。
私は一番近くの部屋に駆け込むしかありませんでした。とてもじゃないけど階段まで逃げ切れませんでした。

バン!
私は木製のドアを開けて部屋に逃げ込みました・・・。
私はドアを閉めて体で抑えながら鍵をかけ、後ずさりながら部屋の奥に行こうとしました・・・。そのとき、
ドン・・・
足に何か当たりました・・・。
本能的に灯りに目が行き、部屋の入り口に備え付けられた火のついた蝋燭を手にし、部屋の中をより見えるようにしま
した・・・。
「・・・!!」
そこには、刃物で切られたり、食われたりしたような傷跡の死体が何十人も部屋に押し込められていたのです・・・。

私には悲鳴を上げる時間すら与えられませんでした・・・。
ドン!!
ドン!!
バギィ!!
ベキィッ!!
部屋のドアが打ち破られ、両親を先頭に、血のついた刃物を持った奴らが次々と入ってきました。
私は死体の上に押さえつけられました・・・。
「ヒッ・・・・」
・・・。
・・・。
刃物を振り上げた醜悪な両親の顔・・・、それが最後の光景でした・・・。







・・・・・・・。
気が付くと、私はいつもの自分のベッドに寝ていました。
外を見ると、眩しいばかりの太陽の光が眼に入ってきました。
凄い汗をかいてましたが、体には傷一つありませんでした。
(何もかも夢だったんだ・・・。)
(本当、ヤな夢・・・。)
私はいつものようにパジャマから着替えて、食事の匂いのする階段を降りました。


「おはよっ!いい朝だね!」
私はいつものように元気よくダイニングにいる両親に挨拶しました。
「ホんとゥ・・・イい朝ネぇ・・・」




終り・・・。



あなたは火を吹き消しました・・・。


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